
財務内容が悪化してきたから、事業再生に取り組まなければならないけど、費用をかけずに事業再生ってできるのかな?
資金繰りが厳しいから、外部専門家に手伝って貰わないで自社で解決できればコストゼロでできそうな気がする。
費用をかけずに事業再生できるかどうか知りたい。
この記事では、こういった疑問にお答えします。
費用をかけずに事業再生を実現させるのは難しい【結論】


業績が好調な時は広告宣伝費や経費をバンバン使って、売上を上げることに集中していたと思いますが、業績が悪化して資金繰りが厳しくなると、なるべく費用をかけないという、守りに入ってしまいがちです。
業績が悪化した時は余計な費用はかけないという考え方は良い事だと思いますが、資金繰りが悪化して、事業再生を実現させるために費用をかけないで進めようとする方が少なくありません。
現在はネットで検索すれば大抵の事は調べることができますので、「自社単独で取り組めば費用はかからない!」と思うのでしょうが、結論から言うと、費用をかけずに事業再生を実現させるのは超絶難しいです。
専門家の関与が必ず必要になるため費用がかかる
事業再生は殆どの場合で専門家の関与が必要になります。
専門家がタダで動くことはあり得ませんから(専門家じゃない人でもタダで動くなんてことはまず無いと思います)、必ず費用は発生します。
会計士や弁護士資格を持っている社員を雇用しているという事であれば、専門家にかかるコストを抑えることは可能だと思いますが(それでもコストゼロは難しい)、そうでもない限り、費用をかけないというのは非常に難しいです。
専門家の支援が必ず必要な枠組みがある
中小企業の金融支援の枠組みは、専門家の関与が条件になる場合が殆どです。
例えば、リスケジュール中の企業が資金調達を行う場合、以下の第三者機関が関与した事業計画が必要となります。
- 認定支援機関
- 中小企業活性化協議会 再生支援業務部門(旧中小企業再生支援協議会)
このことは、銀行に制度融資の依頼・相談をした時に分かると思いますが、必ず「第三者機関の指導の下、事業計画・返済計画を策定して下さい。」と言われますし、制度融資の説明資料に記載されています。
これらの機関はボランティアではありませんから、必ず費用がかかります。
事業再生で費用が必要になる場面6つ


事業再生で費用が必要になる場面は下記6つです。
- リスケジュール(契約手数料)
- 第二会社方式(事業譲渡、会社分割)
- リスケジュール中の資金調達
- 経営者保証に関するガイドライン(保証債務の整理時)
- 資産の保全(任意売却、リースバック等)
- 法的再生
上記のとおりです。
リスケジュール(契約手数料)
金融機関によってまちまちですが、リスケジュールの契約を締結する際、契約手数料をチャージされる事があります。
都心部ではあまり聞かなくなりましたが、今でもリスケジュール契約を締結する際に手数料をチャージしてくる金融機関はあります。
手数料の金額は7万円(別途消費税)が多いです。
第二会社方式(事業譲渡、会社分割)
第二会社を登記する前の段階で、分割計画書を作成する事になりますが、第二会社方式が法律に抵触していないかリーガルチェック行う必要がありますので、この時に費用がかかります。
リーガルチェックを行った後、実際に登記することになりますが、ここでも司法書士や弁護士費用が必ず発生します。


また、第二会社方式を採用する際、株式の評価額や営業権を算定してもらう場合もありますので、その際は会計士による評価が必要となりますので、当然、費用はかかります。
リスケジュール中の資金調達
メインバンクが短期で融資してくれる場合であれば、コストはかかりませんが、リスケジュール中の企業を対象とした制度融資にチャレンジする場合は、コストがかかります。
「専門家の支援が必ず必要な枠組みがある」でも解説しましたが、認定支援機関や中小企業活性化協議会(旧中小企業再生支援協議会)の関与が必要になる枠組みとなっていますので、計画書を作成する際に費用がかかります。
経営者保証に関するガイドライン(保証債務の整理時)
「【銀行融資】連帯保証を外す事はできる?【経営者保証ガイドラインを活用すれば可能】」でも解説しているとおり、経営者保証に関するガイドラインを活用して保証債務を整理する場合、弁護士費用が必要となります。
ちなみに、下記記事で保証債務の整理時に弁護士費用の補助金が出るかどうか、筆者が中小機構に確認したところ、廃業支援に関する補助金は無いとのことでした。
「弁護士費用も用意できない企業は保証債務整理の対象外」とハッキリ言われました。


資産の保全(任意売却、リースバック等)
「【競売回避】事業継続に必要な不動産の保全を図る方法を解説」という記事でも解説しているとおり、会社の営業資産の保全を図る場合、基本的にコストがかかります。
例えば、新会社を設立してファイナンスする場合、会社設立費用やファイナンスの際の手数料等といったコストがかかります。
また、債権者によっては任意売却の交渉は「代理人(弁護士)を通さないと応じられない」という金融機関もありますので、その場合は弁護士費用がかかります。
対象不動産の相場価格を調べる際には不動産鑑定士に依頼する必要があるので、その場合も費用がかかります。
ちなみに、簡単な調査であれば、「「不動産一括査定サービス」なら匿名で売却相場価格を無料で調査可能【おすすめのサイト3選】」という記事で紹介しているサービスを利用すると無料で不動産の相場価格を調べる事ができます。
法的再生
法的手続きで再生する場合、弁護士費用や裁判所に納めなければならない予納金等といった費用がかかります。
以前、筆者の元へ「民事再生を視野に入れている」と相談に来られた経営者の方がいましたが、
「民事再生は予納金と弁護士費用がかかりますけど、費用は捻出できますか?御社の負債総額からすると、7~8百万円は用意しておかないと手続きできませんよ」と指摘すると、「そんな資金は無い…」とガックリしていました。
このように、法的再生はある程度まとまった金額が必要となりますので、法的再生を検討している方は手元資金を残しておく必要があります。
事業再生を決断する際のポイント2つ


事業再生を決断する際のポイントは下記2つです。
- 費用がかかるので、手元資金があるうちに決断する
- 検討から実行まで多くの時間が必要
上記のとおりです。
費用がかかるので、手元資金があるうちに決断する
事業再生は殆どの場合でコストがかかるので、ある程度の手元資金があるうちに決断する必要があります。手元資金が無くなってから重い腰を上げても、選択肢は殆どありません。
筆者は2009年からこの仕事をしていますが、以下のようなケースを数多く見てきました。
- 第二会社で再生したい → 第二会社にかかる費用が用意できない
- 任意売却したい → 自己資金を用意できない
- 経営者保証に関するガイドラインで廃業したい → 弁護士費用が無い
- 中小企業活性化協議会(旧中小企業再生支援協議会)に支援してもらいたい → 二次対応の費用が用意できない
これらのケースに共通しているのは、半年、あるいは1年ぐらい前に決断していれば、費用を賄うことができたということです。
ある程度の資金が残っていれば実行できた方法も資金が無くなってしまえば実行できませんので、運転資金に余力があるうちに決断するようにしましょう
検討から実行まで多くの時間が必要
事業再生は検討から実行に至るまで、多くの時間を費やすことになります。
大まかな流れは以下の3ステップではあるのですが、1つ1つのステップに多くの時間が必要です。
- 検討 → 現況調査
- 計画策定 → 利害関係者と調整しながら計画を策定
- 実行 → 計画を実行する
昨日今日思いついて、明日実行という訳にはいかないです。
つまり、実行するまでに会社の資金繰りがもつかどうか。という視点で考える必要も出てくるのです。
何が何でもコストをかけたくない場合の選択肢2つ


最後に、何が何でもコストをかけたくないという方のために、選択肢を2つ紹介します。
- 何もしない(Do nothing)
- 専門家並みの知識学び、極限までコストを下げる
上記のとおりです。
何もしない(Do nothing)
文字通り何もしないということです。
何もしないといっても、金融機関への支払い自体は止めることになると思います。
理由は、この方法を選択するということは、元本返済はもちろん、金利の支払いすら困窮するような状態に追い込まれていると思いますので、そうなると唯一の解決策は金利の支払いを止める他、選択肢が無いからです。
ちなみに、「信用保証協会に代位弁済された企業に生き残りの選択肢はある?【3つあります】」という記事でも解説していますが、何もしない方法を選択した場合、時効による負債圧縮という可能性が残されていますので、「何もしない=終わり」という訳ではありません。
また、この方法を選択して、何年も事業継続している方や、資金繰りが改善して復活した方もいますので、そんなに悪い選択肢ではないと思います。
専門家並みの知識学び、極限までコストを下げる
第三者機関の関与が必要な枠組みの資金調達を利用する場合は、コストがかかりますが、それ以外は経営者の方や、幹部の方を専門家並みに知識を学ぶことで、専門家にかかる費用を抑える事は可能です。
専門家の料金は基本的にタイムチャージです。
時間がかかれば係る程、料金が増えるシステムとなっていますので、関与する時間を短縮する事ができれば、コスト削減が可能となります。
ちなみに、専門家が関与する時間を短縮する方法は1つしかありません。
それは、専門家と同程度の知識を身につけるという事です。
例えば、第二会社方式について専門家や経営者の方と打ち合わせをする時、筆者のケースで解説すると、以下のようなイメージです。
- 専門家との打ち合わせ → だいたい10~15分程度(長くても30分)
- 経営者の方との打ち合わせ → 2時間×何日もかかかる(同じことを何回も質問される)
同じ質問を何度もしたり、1から10まで説明する場合、当然費用がかかります。
知識があれば、1から10まで聞く必要が無くなりますから、当然、わずかな時間で解決可能です。
また、知識があれば自分でスキームを考える事ができるようになりますので、そうなるとプランニングにかかる費用を抑える事ができます。
どうしてもコストを抑えたいという方は、外部のコンサルタントに依頼しなくても自社で対応できるよう、専門家並みの知識を得るための努力は必要となります。
ちなみに、専門家並みに知識を得る方法を「事業再生コンサルに依頼せずに単独で解決する方法【5ステップだけど1年以上かかりますよ】」という記事で解説していますので、是非どうぞ。
まとめ
以上、費用をかけずに事業再生を実現するのは超絶難しいということについて解説しました。
事業再生に取り組む際、ほとんどの場合で費用がかかりますから、手元資金があるうちに決断するようにしましょう。
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