- 経営改善に着手したが、思うように資金繰りが改善しない
- リスケジュールを何年も更新してきたが、資金繰りが一向に改善しない
等といったお悩みをお持ちの経営者様から、事業再生に関するご相談をよく頂きます。
面談時に財務書類を拝見させて頂きながら、事業の現況や直近で困っている事、希望する方向性等のヒアリングを行い、極力、ご相談者様の意向に沿えるよう、直近の取り組みや今後の方向性等のご提案させて頂いてますが、面談相談で全てのご相談者様の問題がスムーズに解決するかというと、一概にそうとは言えません。
というのも、今後の取り組みや方向性をご提案させて頂く際に、新たな問題に直面してしまう事になるからです。
行動すれば今より悪くなる事は無くなるが、心理的な要因で行動を起こせない
新たな問題というのは「事業再生の行動を起こせない」という問題です。
事業再生を実現させるには、事業再生に向けた行動を起こして初めて実現に近づきます。何もしなければ何も変わる事はありません。
むしろ、真綿で首を締めるかのように状況が次第に悪化していきます。何もしないで事態が好転するような事はまずありません。
ですから、どんな小さなことでも構いませんので、何らかの行動を起こす必要が出てくるのですが、その際、行動を阻害する心理的な要因が出てきてしまい、行動を躊躇してしまうのです。
事業再生を阻む心理的要因とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
事業再生を阻む5つの心理的要因
事業再生を阻む心理的な要因は5つあります。
2009年5月から今まで、様々な事案に関与させて頂きましたが、行動を起こせない方の多くは、以下5つの要因のいずれか、あるいは全てに当てはまる事が殆どでした。
- 銀行と決別して事業を継続していけるかどうか不安
- 事業再生に社員や取引先が賛同してくれるかどうかへの不安
- 計画通りに事が進むかどうかの不安
- 今後の生活に対する不安
- 現状の経済的社会的地位を失うことへの恐れ・不安
それでは、順を追って解説していきたいと思います。
銀行と決別して事業を継続していけるかどうか不安
- リスケジュールしても資金繰りが厳しい
- リスケジュールを何度も更新しており、金利を払い続けているが状況が一向に改善しない
- 借入金の利払いで営業利益が消えてしまい、資金繰りが改善しない
というような場合、「銀行への返済を完全にストップさせる」という事を検討するのですが、その際、「銀行と決別して本当に事業継続できるのか?」という事に不安を覚える方が多いです。
返済を完全にストップするという事は、銀行との決別を意味しますから、そのことに対して不安を覚える気持ちも少なからず理解できますが、こうした不安は杞憂に終わる事が殆どです。
そもそも、リスケジュールしているということは、新規融資がNGだからこそ、リスケジュールという処置をしている訳です。新規融資がOKであれば、資金繰りの相談をした際に新規融資、若しくは借換えの提案をしてきます。
そのような事もなく、リスケジュールを勧めてくる、若しくは何回も更新しているという事は、銀行に金利を払い続けていても、新規融資が出る保証はどこにもありません。
と言うことは、資金繰り面から考えれば、返済を完全に止めた方が金利を払わなくて済みますから、状況が好転する場合が殆どです。
事業再生に社員や取引先が賛同してくれるかどうかへの不安
単純に銀行への返済をストップをする程度の事であれば、社員や取引先へ賛同を得る必要はありませんが(黙っていれば分からない事なので)、第二会社方式を検討するような場合、必ずこの問題に直面します。
というのも、第二会社方式で事業再生を行う場合、社員の雇用契約の移転があったり、取引先との契約が移転する場合が殆どだからです。
第二会社方式の詳しい解説は以下の記事を参考にして下さい。

第二会社方式での事業再生を実行に移す段階で、社員の方に「新会社を設立する事になったので、〇月から雇用主が新会社へと変わる」と伝えた際、不安を覚えた社員は退職してしまう事があります。
また、取引先も同様、契約名義変更の相談に伺った際に「新会社との契約はできない」と言われる可能性も当然あります。
こうなると第二会社での事業再生が上手くいかなくなる場合が出てきますが、その事を恐れ、行動を起こさないというのも如何なものかと思います。
ただ、こればかりは割り切ってしまい、これがきっかけで退職するという事であれば致し方ないと考えるほか無いと思います。
実際、こうした事はよく起こりますが、これが原因で全てがダメになるという事もありませんので、断られたら早急に新たな人員を確保する。というように考えを切り替えていく他ありません。
計画通りに事が進むかどうかの不安
事業再生に取り組むという事は、未知の出来事に首を突っ込むわけですから、どうしても不安感が拭えない場合が少なくありません。殆どの経営者様は事業再生を初めて経験される訳ですから、不安を覚えるのは当然かもしれません。
「計画通り進まなかったらどうしよう…」という不安から、「やはり現状維持で様子を見よう」となってしまう場合があります。
今後の生活に対する不安
事業再生を進めると、銀行と決別する場合が殆どなので、今後の事業継続に不安を覚えるのは前述の通りなのですが、事業継続に不安を覚えると同時に、「生活を維持のための自分の給料を確保し続けることができるのか?」という事に不安を覚えてしまう場合があります。
ただ、こうした不安も杞憂に過ぎません。といのも、業績が悪化しているからこそ、リスケジュールをしている訳であって、今後も金利を払い続けていれば悪くなる事はあっても良くなる事は殆どありません。
しかし、事業再生を決断し、銀行への返済を止めてしまえば金利を払わなくて済む分、資金的な余力が出てきます。なので、やはり杞憂に終わる場合が殆どなのです。
自宅(所有不動産)を出ていく事になるのでは?
不動産を所有している経営者様は「自宅の保全ができなければ競売になってしまうのではないか」「自宅の保全はできるのか」「仮に、任意売却という事になった場合、資金的な手当てはできるのか」という色々な不安が出てくる場合が少なくありません。
保全を図る事ができなければ、最悪出ていかなければならなくなりますから、当然と言えば当然です。
しかし、言い方は悪いですが、遅かれ早かれ担保処分となる訳ですから、それであれば買受先を事前に探したり、資金手当て(ファイナンス先)を検討した方が、保全の成功確率も大幅に上がると思います。
最悪なのが、無策で無駄に時間だけが過ぎてしまうというケースです。時間が経つにつれ保全の成功確率は逓減しますので、早めに決断した方が良いです。

現状の経済的社会的地位を失うことへの恐れ・不安
単純に銀行への返済をストップして事業継続を狙う場合(第二会社方式等の方法を採用しない場合)、代表者が変わる事はありませんが、第二会社方式で事業再生を行う場合、負債を処理するためにいつかは清算することになります。
法人を清算すると、法人の代表者という地位を失うことになりますから、その時点で「社長」と呼ばれる事が無くなります。
長年地元で事業を続けているような方や、人口が少ない地域で事業を営んでいるような方は「恥ずかしい」と感じてしまったり、「会社を潰したと噂しているのでは?」という、被害妄想的な考えで、事業再生に躊躇してしまう方がいます。
しかし、これも考え過ぎと言わざるを得ません。
気になるようでしたら、全て清算した後、また法人を設立すれば良いだけの話です。昔と比べて法人設立のハードルはぐっと低くなっていますから、肩書が欲しければ、肩書を作ってしまえば良いのです。
外的な要因もあります
心理的な要因以外にも、事業再生の決断を鈍らせる外的要因というものがあります。
身近な方から「そんな事(事業再生)をしなくても済むよう、売上が上がるよう頑張ろう」と言われたり、「専門家に依頼すると費用がかかるから、ネットで調べて自分達で解決しよう」と、身近な方から妨害される事があります。
以下の記事でも実例を解説していますので参考にして下さい。

ちなみにこうした例は特別な事では無く、よくある話ですので十分お気を付け下さい。
まとめ
以上、事業再生の決断を鈍らせる5つの心理的要因について解説致しました。
事業再生を何度も経験している方はかなり少ないと思いますので、大抵の方が初めての経験になると思います。初めての事に対して不安を覚える気持ちも理解できますが、間違いなく言える事は、何もせずに事態が好転するような事は無いという事です。
悩んでいる間に時間はどんどん進んでいきます。
一カ月悩むという事は、金利の分だけお金を捨てたのと同じことです。1年悩むという事は、数百万のお金を捨てたのと同じことです。
戦略的に金利を払っているのであればまだしも、無策であれば捨てているのと同じことです。早急に決断し、これ以上お金を捨てるような事は止めるべきだと思います。