
銀行に新規融資を依頼したら、「役員貸付金が多過ぎるから、残高が減るまで融資できない」と言われた…。
会社から金を借りた覚えはないのに、なぜ、役員貸付金が発生しているのかよく分からないよ…。原因を知りたいよ。
このまま融資を受けれないと困るから、役員貸付金を解消する方法があれば教えて欲しい。
この記事では、こういった疑問にお答えします。
決算書に役員貸付金があると銀行は融資に消極的になる


決算書の勘定科目に「役員貸付金」が計上してあると、銀行は融資に消極的になります。
理由は、銀行は役員貸付金が計上してあると下記のような疑念を持つからです。
- 会社に融資しても、経営者個人に金が流れるだけなのでは?
- 別の会社に迂回融資しているのでは?
- そもそも、融資を依頼してくる前に、経営者に貸している金を返済してもらうのが筋なのでは?
そのため、銀行は役員貸付金がある企業に対し、新規融資の条件として役員貸付金を減らす事を条件に出してくることがあります。
役員貸付金を減らさない限り新規融資は難しい
銀行に役員貸付金を減らす事を条件に出された場合、残高を減らさない限り、新規融資は期待できません。
キャッシュフローで資金繰りが回るのであれば、今後、銀行融資を受ける必要性は無ないので、借りれないのであればそのままリスケジュールしてしまうという選択肢もあります。
リスケジュールの言葉の意味は「【銀行融資】リスケジュールで返済額を見直して資金繰り改善【基礎知識】」をどうぞ。
しかし、銀行から融資を受けれないと資金繰りが回らない、あるいは設備投資(補修)ができず、事業継続が難しくなる、という事であれば、役員貸付金を減らす努力は必要です。
役員貸付金を返済・解消する方法4つ


役員貸付金を返済・解消する方法は下記4つあります。
- 経営者の財布から返済する
- 経営者個人で借りたお金で返済する
- 経営者個人の資産を売却して返済する
- 会社が債権放棄する
上記のとおりです。
経営者の財布から返済する
経営者の財布から返済するという事は、つまり、経営者個人の現預金や毎月の役員報酬の中から会社から借りたお金を返済するという方法です。
役員貸付金の残高があまり多くなければ、毎月地道に返済するのも1つの方法です。
ただし、あまりに残高が多いと、この方法では早期解消は期待できません。
経営者個人で借りたお金で返済する
2つ目の方法は、経営者個人でお金を借りて会社に返済するという方法です。
お金を借りる先は親戚・知人、カードローンやフリーローンなど様々ですが、いったんまとまったお金を借りて、会社に返済することで役員貸付金を解消する事ができます。
個人で借りたお金も毎月きちんと返済しましょう
経営者個人でお金を借りて会社に返済すれば、決算書の役員貸付金の残高は解消できると思いますが、新たにお金を借りることになるので、毎月きちんと返済する必要が出てきます。
役員報酬を増額したり、節約するなどして、返済原資を確保し、個人で借りたお金もきちんと返済するようにしましょう。
経営者個人の資産を売却して返済する
経営者個人に現預金はないけど、換金可能性の高い以下いずれかの資産をお持ちの場合。
- 不動産
- 車
- 有価証券
- 保険(解約返戻金)
これらの資産を現金化し、会社に返済することで役員貸付金を解消するという選択肢もあります。
経営者個人の資産を会社に売却して相殺する事も可能
不動産や車両などであれば、経営者が会社に売却することで役員貸付金と売却代金を相殺するという方法もあります。
ただし、この方法を採用する場合、注意点が下記2つあります。
- 売却益が出る場合、経営者個人に課税される可能性がある
- 同族間の不動産売買は税務当局に恣意性を疑われやすい
上記のとおりです。
売却益が出る場合、経営者個人に課税される可能性がある
売却益とは、つまり、取得時の価格よりも高い値段で売却した際に出る利益の事ですが、売却益が大きいと経営者個人に課税されてしまいます。
同族間の不動産売買は税務当局に恣意性を疑われやすい
会社と経営者間で不動産売買を行う場合、価格操作が行われやすいので、税務当局のチェックが入る可能性があります。
また、同族会社間の不動産売買、同族会社と役員(個人)間の不動産売買、同族間の不動産売買、親子間の不動産売買は、売買当事者の思惑や恣意性が働きやすく、価格操作が行われやすいので税務当局の厳しいチェックが入る可能性があります。
出典:同族間での不動産売買は時価鑑定 | 大阪の不動産鑑定士事務所アプレイザル総研
税務当局に目を付けられると後々面倒ですから、会社と経営者間で不動産売買を行う際は、税理士に確認しながら検討するようにしましょう。
会社が債権放棄する
最後に、会社が債権放棄する方法です。貸倒れとして処理することで、経営者は返済しなくて済むという方法です。
一見すると、最も簡単な方法に思うかもしれませんが、実務上、最もおすすめできない方法です。理由は下記2つあります。
- 経営者個人に税金が発生する
- 貸倒損失としてのメリットを享受できない
上記のとおりです。
経営者個人に税金が発生する
会社が役員貸付金を放棄すると、放棄した金額は経営者への「役員賞与」という扱いになります。
例えば、1,000万円の役員貸付金の残高があり、この1,000万円を債権放棄すると、経営者に「役員賞与」を払ったという扱いになり、その年の所得は役員報酬と別に1,000万円の役員賞与を受けったことになります。
そうなると、経営者個人に所得税や住民税など税負担が激増します。
貸倒損失としてのメリットを享受できない
会社が債権放棄を行う場合、貸倒損失として計上することで節税効果を期待できますが、役員貸付金の債権放棄は経費として認められないため、貸倒損失のメリットを享受できません。
こうした2つの理由から、会社が債権放棄をするのはおすすめできないのです。
もし、どうしても債権放棄するしか無いという場合は、税理士とよく相談してから実行するかどうかを検討するようにしましょう。
役員貸付金が発生する原因は4つ


最後に、役員貸付金が発生する原因について解説します。
これ以上、役員貸付金の残高を増やさないためにも、役員貸付金の発生原因をきちんと把握しておきましょう。役員貸付金が発生する原因は下記4つです。
- 会社の資金を私的に使っている
- 役員報酬の引き下げ過ぎによる影響
- 領収書を切れない場合にやむなく計上している
- 経理処理がずさんでお金の貸し借りがきちんと計上されていない
上記のとおりです。
会社の資金を私的に使っている
本来、経営者個人の財布と会社の財布は明確に分ける事が望ましいですが、100%オーナーの場合、法人と個人の懐が別々になっておらず、個人の資金が足りないときに会社の資金を流用しているケースが少なくありません。
銀行から融資を一切受けないということであれば、個人と法人の懐を明確に分ける必要は無いと思いますが、銀行から融資を受けているのであれば、明確な線引きは必要です。
知らない間に私的流用していることもあります
経営者自身が知らない間に私的流用しているというケースも良く見かけます。
よくあるケースが法人カードを利用している場合です。
会社で使用している経費については会社に請求して、経費として処理されますが、経営者個人が使用した分については、経営者への貸付として処理されます。
そのため、経営者の知らない間に役員貸付金の残高が数百万円に膨れ上がっているというケースはよく目にします。
役員報酬の引き下げ過ぎによる影響
業績の見通しが芳しくない時に、役員報酬を大幅に引き下げ、赤字にならないよう対策する事があります。
例えば、今まで役員報酬を100万円に設定していたけど、業績が悪化してきたので、見通しが立つまで役員報酬を毎月20万円に減額したとします。
- 今までの役員報酬100万円 → 翌期から20万円に減額
役員報酬を減額すると、社会保険料や経営者個人の税負担は軽くなりますが、今まで100万円の報酬を貰っていた人が、いきなり20万円に減額したところで、月20万円の範囲内で生活するのは困難です。
ほとんどの場合で、「最低でも月に50万円はないと生活が維持できない。」となるはずです。
この時、会社から毎月30万円のお金を引き出して、生活費に充てる事になるのですが、この時に会社から借りたお金がまさに役員貸付金として補填される事になるのです。
- 役員報酬:20万円
- 会社から一時的に借りるお金:30万円(役員貸付金)
赤字は押さえる事はできますが、決算期になれば360万円の役員貸付金が発生します。
これを2年続ければ役員貸付金は720万円になります。こうして、役員貸付金は膨れ上がるのです。
領収書を切れない場合にやむなく計上している
領収書を切れない場合とは、2つのケースがあります。
- 領収書を切ると赤字に転落する
- 領収書が切れない謝礼やリベートの支払いがある → 使途不明金の処理としてやむなく役員貸付金に計上している
こうしたケースでは、やむなく役員貸付金として計上しているケースを良くみます。
経理処理がずさんでお金の貸し借りがきちんと計上されていない
経理処理がずさんで、経営者と会社間でのお金の貸し借りがきちんと計上されていないために、役員貸付金が膨れ上がってしまうケースがあります。
具体的には次のようなケース。
- 経営者 → 現金で会社にお金を貸す
- 会社 → 振込で経営者にお金を返す
きちんと記帳していれば、現金でお金を貸して、振込で返済してもらっても問題もないのですが、経理がずさんだと現金でお金を貸したという記録は残らずに、通帳だけみて「会社から経営者に出金がある」という記録しか残らずに、役員貸付金が計上されるという悲劇がおこるのです。
例えば、月末に400万円の資金が足りないからと、経営者個人が現金400万円を会社に貸付けたとします。
この時、会社に400万円の現金を貸した(役員借入金)ということをきちんと記帳すれば良いのですが、記帳せずにそのまま会社の資金繰りに充当します。
そして、会社の資金繰りに余裕がある時に、会社に貸した400万円を返済してもらうため、会社から社長個人の銀行口座に400万円振り込みで返済します。
- 現金で400万円会社に貸した
- 振込で400万円会社から返してもらった
経営者の頭の中では「行って来い」の状態ですが、会社に400万円貸した時の形跡が無ければ、記帳をしている会計事務所としては「会社から400万円借りている」という状態しか把握できません。
このような事が何度も起こると、役員貸付金がどんどん膨れ上がり、気が付くと役員貸付金が何千万円計上されている、という決算書ができあがってしまうのです。
ちなみに、こうした事が原因で多額の役員貸付金が膨れ上がってしまった企業の決算書を毎年のように目にすることがあります。
まとめ
以上、役員貸付金が原因で銀行融資を断られる原因や解消方法を解説しました。
おわり。