
今の会社で融資枠を使い切ってしまい、これ以上の銀行融資は難しいから、別会社を立ち上げて融資を受けようと考えているよ。
今の会社では銀行融資が絶望的な状況だから、別会社を設立して収益性の高い事業を移し、そっちで融資を受けようと考えてるけど、融資を受ける事はできるかな?
銀行融資の枠を増やすために別会社を作ろうと考えているけど、代表者が同じでも銀行は別会社に融資してくれるかどうか知りたいよ。
この記事では、こういった疑問にお答えします。
別会社を設立して新規融資を受ける事は可能だけど「実質同一」とみなされないよう注意が必要


筆者のお客様から「既存の法人とは別に新設会社を設立し、新しい会社で融資を受けたい」というご相談を受ける事がよくあります。
よくある状況は下記のとおりです。
- 今の事業とは別に新しく始めたい事業があるから、別会社を作って融資を受けたい
- 今の会社ではこれ以上の融資を受ける事は難しいから、別会社を作って融資を受けたい
- 信用保証協会に代位弁済してしまい、求償債務があるから融資を受ける事が不可能
こういった状況において、別会社を作って融資を受ける事は実際は可能かどうか、気になるところだと思いますが、
結論から言うと、別会社で新規融資を受ける事は可能です。
ただし、一点補足があり、
別会社の代表者が既存会社と同じだと、銀行や政府系金融機関から「既存会社と別会社は実質同一」とみなされてしまい、資金調達は絶望的になりますので、気を付けましょう。
代表者が同じだと「実質同一会社」とみなされる
別会社を作って銀行や政府系金融機関に融資を申込むと、基本的に既存会社と別会社はそれぞれ異なる会社として審査されます。
しかし、既存会社と別会社の代表者が同一だと、業種や所在地・役員構成が全く異なったとしても、「実質同一会社」とみなされてしまいます。
具体的には次のようなケースです。
- 株式会社A(既存会社)
- 代表者:上野隆司(仮名)
- 業種:卸売・小売業
- 所在地:東京都
- 役員:都内在住の方3名
- 株式会社B(別会社)
- 代表者:上野隆司(仮名)
- 業種:システム開発
- 所在地:埼玉県
- 役員:埼玉在住の方3名
パッと見、全く異なる会社のように思えるかもしれませんが、
既存会社と別会社の代表者が同じなので、このような企業は「実質同一会社」とみなされます。
「実質同一会社」とみなされると融資枠も同一となる
銀行や政府系金融機関は2つの会社を「異なる会社」として扱いはするものの、「代表者が同じだから懐は一緒」と考えますので、借入枠を同一視します。
例えば、既存会社ですでに2億円の融資残高があり、別会社を作って5千万ぐらいの融資枠を作りたいと考えたとします。
- 既存会社 → 既存融資残高が2億円(融資枠を使い切っている状況)
- 別会社 → 5千万円ぐらいの融資枠を増やしたい(願望)
会社は別で審査自体も別だから、別会社は独自に融資枠を確保できそうな印象を受けるかもしれませんが、
銀行や政府系金融機関からすると「実質同一会社」という目線で見てきますので、次のように考えます。
- 既存会社と別会社の融資枠は合わせて2億円 → すでに既存会社で2億円融資しているので、別会社の融資枠は増やさない(つまりゼロ)
つまり、このようなケースで別会社が融資を受けようと思ったら、既存会社の融資残高(既借入金)を減らさない限り、別会社で融資を受けることはできないのです。
別会社で融資を受けやすくするポイント3つ


別会社で融資を受けやすくするポイントは下記3つあります。
- 別会社の代表者にならない【例外あり】
- 関係会社間で取引しない
- 代位弁済を受けた会社にいた役員を別会社の役員に入れない
上記のとおりです。
別会社の代表者にならない【例外あり】
最も安全な方法として、別会社の代表者にならないという事です。
既存会社と違う事業・役員構成にしていても、代表者が同じだと、銀行や政府系金融機関からすると「結局、懐は一緒。」と見られてしまいます。
ですので、実質同一とみなされないための手っ取り早い解決策として「代表に就任しない」というのが安全なのです。
【例外】既存会社と取引のない銀行に融資を申し込めば同一視されない
既存会社と別会社を「実質同一会社」と判断するのは、あくまで既存の取引行だけですので、既存会社と取引の無い銀行に融資を申し込んだ場合、状況は異なります。
別会社が今まで取引したことが無い銀行に融資を申し込めば、この問題は回避できます。
ただし、その場合、全くの新規取引となるため、申込むにあたり面倒な手続きが発生し、しかも大きな金額を調達する事は難しいというデメリットがあります。
関係会社間で取引・お金の貸し借りをしない
関係会社間での取引は主に2つあります。
- 関係会社間でのお金の貸し借り
- 関係会社間での商取引(関係会社間で売上を発生させるパターン)
上記のとおりです。
関係会社間でのお金の貸し借り
「実質同一会社」で銀行が最も警戒することは、関係会社間でお金の貸し借りをしないか?という事です。
例えば、「別会社で新規事業を立ち上げるから」と相談を受けて融資したのに、別会社が既存会社にお金を貸したりする事を銀行は警戒します。
逆もまたしかりです。
これは、「迂回融資」と呼ばれ、銀行や政府系金融機関に発覚すると今後の融資は絶望的となります。
関係会社間での商取引(関係会社間で売上を発生させるパターン)
例えば、次のようなケース。
- 既存会社の売上 → 年商5億円
- 別会社の売上 → 年商3億(うち、1億5千万円は既存会社からの売上)
既存会社と別会社の売上を合計すると8億円ですが、8億円のうち、1億5千万円は関係会社間での取引ですから、実質的な売上は6億5千万円となります。
しかし、既存会社と別会社が銀行に融資を申込んだ場合、銀行は以下のように審査を行うことになります。
- 既存会社の売上 → 年商5億円
- 別会社の売上 → 年商3億円
決算書上に記載されている額面の売上を元に審査するものの、「実質同一会社」という視点で考えると、額面の売上と実態の売上にズレが生じる訳です。
こうした「ズレ」があると、銀行は融資に消極的になります。
ですので、関係会社間での取引は無い方が融資を受けやすいです。
信用保証協会の代位弁済を受けた会社にいた役員(取締役)を別会社の役員に入れない
別会社でマル保融資(保証付融資)を申込む際、マル保融資の代位弁済を受けた事がある会社で役員に就任していた人を役員に就任させない方が良いです。
ちなみに、信用保証協会の代位弁済について以下の記事で解説していますので、ぜひどうぞ。


「役員(取締役)は代位弁済を起こした当事者(代表取締役)ではないから関係なのでは?」と思うかもしれませんが、
保証を付ける信用保証協会の立場からしたら、「代位弁済を起こした会社の役員」と見ますから、良い影響があるはずがありません。
マル保融資を受けるのが難しくなりますので、役員構成は注意しましょう。
まとめ
以上、別会社を設立して融資を受ける事はできる?ということについて解説しました。
実質同一会社とみなされると融資を受ける事は難しくなりますので気を付けましょう。
おわり。